向いている人
「国ごと転移」という設定に惹かれる人
異世界ものは数あれど、転移するのが個人ではなく国家まるごとという作品はなかなか見かけません。一人の主人公が力を得る話ではないので、食料をどう確保するか、見知らぬ国とどう国交を結ぶかといった、国単位の課題から物語が動き出します。この切り口の新しさだけでも読む価値がありました。
現代の技術と異世界の戦力差を味わいたい人
相手は帆船とワイバーン、こちらは護衛艦と戦闘機です。海、陸、空と舞台を移しながら、現代の装備が異世界の常識を塗り替えていく場面が続きます。最初にぶつかるのが海の上という、この手の作品では少し珍しい順番で、戦場ごとに違う見せ方がされるのも楽しいところです。
異世界側から見た日本の描写が好きな人
日本の都市や兵器に触れた異世界の人々が、自分たちの常識で必死に解釈しようとする場面が何度も描かれます。友軍の将軍が遠回しに放った嫌味が、日本側にはただの気遣いとして受け取られてしまうような噛み合わなさもあり、戦い方が違いすぎるゆえのすれ違いが可笑しさを生んでいます。
戦争と法律の関係を考えるのが好きな人
平和を掲げた憲法を持ったまま、他国の戦争に巻き込まれたらどうするのか。作中の日本は、今の法律の枠をどう解釈すれば動けるのかを探りながら判断を重ねていきます。現実の制度に照らして「本当にこうなるのか」と考えを巡らせたくなる場面が多いのも、本作ならではの面白さでした。
合わないかもしれない人
固有名詞や伝承の多さが苦手な人
国名、地名、人物名に加えて、この世界に伝わる伝承や神話がとにかくたくさん出てきます。視点も次々に切り替わるので、途中で何が何やら分からなくなりそうな瞬間がありました。巻末に用語集が付いているとはいえ、情報量の多さは覚悟しておいたほうがいいかもしれません。
拮抗した戦いを期待する人
異世界側の文明は現代日本より大きく遅れていて、魔法があっても技術の差を埋めるほどではありません。そのため戦いは基本的に一方的に進みます。力が拮抗した緊張感のある攻防を求めていると、物足りなさを感じるはずです。
敵側の人物に感情移入してしまう人
本作は、日本と戦う側の兵士や竜騎士の過去や家族の話も丁寧に描きます。一方的な戦いの中でその背景を知らされるので、敵なのに情が移ってしまい、読んでいて胸が苦しくなる場面があります。
感想・見どころ
※本記事は作品内容に軽く触れています。未読の方はご注意ください。
読み始めてまず惹かれたのは、やはり日本が丸ごと異世界に転移するという設定です。個人の転生や召喚ではなく国家単位というのは中々見ない切り口で、それだけでこの先の広がりに期待が膨らみます。作中には『ムー』という名の大国も出てきて、ムー大陸の話がどう絡んでくるのかも今から楽しみです。
その一方で、プロローグを読みながら気になったのが、日本の一般の人たちはこの事態を知らされるのかという点でした。普通に暮らしていれば、海外の情報が入ってこなくなっても、しばらくは通信の不具合くらいで済ませてしまいそうです。この疑問には第1章で掲示板のやり取りという形で答えが示されていて、国民の目線が物語に挟まるのも面白い工夫だと感じました。
そしてこの世界には、日本に存在しない魔法があります。異世界の人々にとっては当たり前の力で、どんな仕組みで動いているのかはまだ全貌が見えません。異世界ものは文明が発展していない設定が多いぶん、魔法の技術がどこまで科学の差を補えるのかは、今後の楽しさを左右する部分だと思っています。
この流れの中で、日本は国交を結んだばかりの国の戦争に巻き込まれていきます。憲法を守るべきか、国と人を守るために動くべきか。一般人の感覚からすれば、憲法を守って死ぬくらいなら戦うほうを選ぶのが普通ではないでしょうか。作中の日本がそこにどう折り合いをつけるのかは、見どころのひとつでした。
そのうえで戦いが始まると、最初の舞台が海だったのは少し意外でした。そこから陸、空へと場面が移り、どの戦場でも異世界側の常識がまったく通用しない様子が描かれます。海も空も陸も容赦のなさは変わらず、読んでいて何度も「無情だな」とつぶやきたくなりました。
陸の戦いの前には、友軍とのすれ違いも描かれます。相手の将軍の嫌味を日本側は気遣いと受け取ってしまうのですが、そもそも戦い方が違いすぎるのだから、皮肉が伝わらないのも仕方ない。妙に納得しながら笑ってしまう場面でした。
厄介なのは、敵側の兵士の過去や家族の話が要所で挟まれることです。竜騎士や一般の兵が何を背負って戦場に立っているのかを知ってしまうと、どうしても肩入れしたくなります。一方的な戦いだと分かっているぶん、なぜここで感情移入させるのかと言いたくなりつつ、その人物の行方を見届けたくてページをめくる手が止まりませんでした。
戦争の決着の付け方にも、現代日本らしい理屈が持ち込まれます。異世界の戦記ものではまず聞かない言葉が飛び出してきて、思わず二度見しました。本当に今の日本の法律に当てはめるとこうなるのか、詳しい人に聞いてみたいところです。
終盤では、ロデニウス大陸の外へと目が向けられます。一癖も二癖もありそうな国々が姿を見せ、気のいい指導者がいて無下にはできない国がある一方で、傲慢な列強の影も濃くなっていきます。1巻は、日本がこの世界に本格的に踏み出す入口にすぎないのだと感じさせる終わり方でした。
まとめ
『日本国召喚』1巻は、国ごと異世界へ転移するという珍しい設定を、外交と戦争の両面からじっくり描いた一冊です。異世界の人々の目を通して日本の力が明らかになっていく過程と、海・陸・空で常識が覆される戦いが一番の魅力でした。
固有名詞や伝承の多さ、一方的な展開は好みが分かれるものの、現代日本が異世界でどう振る舞うかを考えながら読みたい人にはよく刺さるはずです。大陸の外に広がる列強との関わりが本格化しそうな次巻が、今から楽しみです。
🔒 ネタバレあらすじを開く(クリックで表示)
物語は、正体不明の飛行物体が公国の空を横切る事件から始まります。やがて現れた日本の外交官を前に、公国は友好よりも「脅威かどうか」を見極めるための使節団を送り込みます。ところが彼らが目にしたのは、自国の常識では測れない都市と軍事力でした。敵に回してはならない国だと悟った使節団は、日本に無い魔法という手札を携えて交渉に臨み、両国は国交へと歩み出します。
しかし平穏は長く続きません。日本を「ワイバーンすら持たない国」と見誤った隣国ロウリアが、亜人の根絶を掲げて侵攻を始め、国境の町が悲惨な形で落とされます。日本は憲法の枠をぎりぎりまで解釈し直して派遣を決め、最初の戦場となる海で、数千隻の大艦隊にわずかな艦で向き合うことになります。
陸では、友軍の将軍に邪魔者扱いされながらも、自衛隊は警告を出したうえで攻撃の準備を整えます。警告を挑発と受け取った敵軍に、猶予が切れたあと何が起きたのか。その結果を受けて日本が戦える範囲は公国の外にまで広がり、戦争の枠を超えたある計画が動き出します。
計画の舞台は敵国の王都です。本命を悟らせないための陽動が港と空を襲い、王都を守るはずだった戦力は一日のうちに姿を消していきます。追い詰められた王都に届いたのは、剣でも魔法でもない、いかにも現代日本らしい幕引きでした。その陰では、先祖伝来の品を携えて戦場に立った一人の兵士と、その帰りを待つ家族の物語も描かれます。
戦いが終わると、視線は大陸の外へ向かいます。ロウリアの背後にいた列強はひそかに痕跡を消し、別の海では、日本と似た境遇を持つ国が列強の一角を呑み込み始めていました。そして剣の国との国交を探る日本の前で、傲慢な列強の懲罰が始まります。港に足止めされた外務省の一行を残したまま、物語は次巻へ続きます。
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