向いている人
勘違いが勘違いを呼ぶ展開が好きな人
ノールは相変わらず、自分を鍛錬の足りない最低ランクの冒険者だと思っています。一方で王女リーンは、そんなノールを「先生」と慕い、誰よりも強い人だと信じ込んでいる一人。この巻では、ノールが何気なく口にした一言を、リーンが大まじめに「特別な教え」として受け取ってしまう場面があり、二人分の勘違いが重なるおかしさに笑いながら読みました。
リーンやロロの見せ場を楽しみにしている人
あとがきでも触れられているとおり、ミスラ教国編はリーンが中心の物語です。相手の考えが分かる魔族の少年ロロも、旅立ちまでの間に王国最強の大人たちから日替わりで鍛えられ、しっかり見せ場があります。その根性があまりにすごくて、読み進めるうちに「この子、主人公よりおかしいのでは?」と思うほどでした。
頼れる大人たちが出てくる物語が好きな人
リーンの兄であるレイン王子をはじめ、国王や、国王のかつての冒険仲間である【六聖】など、王国の上に立つ人たちがそろってまともなのが、この作品の気持ちいいところ。水面下で国を守るために頭を悩ませ続ける王子は、今回もつい応援したくなります。
合わないかもしれない人
すぐに舞踏会の本題に入ってほしい人
あらすじにある舞踏会の場面は、巻の後半にあたります。前半は旅立ちまでの準備期間なので、すぐにミスラでの駆け引きを読みたい人には、少し回り道に感じられるかもしれません。
手に汗握る緊張感を求める人
敵地に乗り込む話ではありますが、ノールの勘違いに笑える場面が多く、全体の読み味は明るめです。「この先どうなってしまうのか」というハラハラ感を重視する人には、物足りなく感じるかもしれません。
感想・見どころ
※本記事は作品内容に軽く触れています。未読の方はご注意ください。展開に踏み込んだ内容は、末尾の折りたたみにまとめています。
この巻の楽しさは、大きく分けて「旅立ちまでのノールの日々」「ミスラ行きに向けて動き出す仲間たち」、そして「敵地ミスラでの舞踏会」の3つです。
まず笑ったのが、序盤のノールの働きぶりです。王都の復興工事で『黒い剣』を杭打ちに使っているうちに、ノールには【杭打ち】という初めての二つ名がつきます。正直ちょっと微妙な二つ名なのに、本人はうれしそう。すっかり工事現場になじんでいて、「冒険者より、こっちの仕事のほうが向いているのでは?」と思えてきます。
旅立ちまでの鍛錬としてノールが選ぶのが、なんと幽霊退治の依頼です。幽霊に効きそうな攻撃が【プチファイア】しかなく心細いからと、王女のリーンについてきてもらうノールには、思わず笑ってしまいました。ノールがさらっと使ってみせた魔法も実はかなり高度らしく、本人と周りの認識のずれがこのシリーズらしくて楽しい場面です。
旅立ちまでの間には、仲間たちに焦点を当てた章も続きます。相手の考えが分かる魔族の少年ロロは、国王のかつての冒険仲間である【六聖】に日替わりで鍛えられ、矢の雨を体で受けながら突破するような訓練にも弱音を吐きません。リーンの護衛騎士イネスの生い立ちが語られる章では、彼女もロロと似たつらい境遇をくぐってきたことが分かります。
王国の槍使いギルバートは、新しい鎧を試そうとノールに模擬戦を挑み、命がけの攻撃を繰り出し続けます。「命かけすぎでしょ」と突っ込みつつ、自分より強い相手に出会えて楽しそうな姿が印象に残りました。
後半、一行がたどり着く聖都ミスラは、街の会話が結界の技術で集められているという、正直住むのはちょっと遠慮したい街です。待ち受けるのは、王国の併合をもくろむ教皇アスティラと、リーンの婚約者を名乗る息子のティレンス皇子。教皇は第一印象から「なんて怖い人なんだ」と感じましたし、皇子もなかなかのクズっぷりで、敵役がしっかり憎らしいぶん、物語に入り込みやすくなっています。
そんな敵地でもノールは平常運転です。敵地ならではの「おもてなし」を、ノールだけがまったく別の意味で受け取ってしまう場面では、「気づいてあげてよ」と突っ込まずにいられませんでした。
そして、この巻の主役はなんといってもリーンです。あらすじにある「助ける者が誰もいない舞踏会の会場」で、敵国のただ中に立つ王女がどう立ち回るのか。ここがこの巻いちばんの見せ場で、読みながら思わず声が出ました。その先は、ぜひ本編で確かめてください。
私が読んだ版には、巻末に特別書き下ろし「ドレスの仕立て」が収録されていました。リーンのドレス作りに兄のレイン王子がこっそり注文を重ね、私財まで投じてしまう話で、王子の妹思い(というより、たぶんシスコン)ぶりがよく分かる、ほっこりする一編です。
まとめ
『俺は全てを【パリイ】する』3巻は、クレイス王国の併合を狙う神聖ミスラ教国へ、リーンがノール、イネス、ロロとともに乗り込む巻です。前半は旅立ちまでの日々で仲間たちそれぞれが掘り下げられ、後半は敵地での舞踏会へとつながっていきます。
自分を弱いと思い込むノールと、そのノールを誰よりも強いと信じるリーン。二人分の勘違いに笑いながら読める一冊です。2巻までノールの勘違いを楽しんできた人なら、今巻はリーンやロロの見せ場も加わって、新章の入口としてしっかり楽しめるはず。終わり方もまさに「いいところ」なので、次巻も手元に用意しておくのがおすすめです。
🔒 ネタバレあらすじを開く(クリックで表示)
王国を訪れた教皇アスティラは、保護されている魔族の少年ロロの引き渡しを求めて退けられると、今度はリーンと息子ティレンス皇子がすでに「婚約者」だと言い出します。舞踏会への招待状には、ロロの名前まで添えられていました。
リーンは婚約話をきっぱり否定しながらも、危険を承知で出席を決めます。声をかけられたノールは一度は断りますが、本当は冒険がしたいのだと認め、同行を決めました。
旅立ちまでの三ヶ月、鍛錬の一環として「幽霊退治」の依頼を受けたノールは、リーンを連れて地下へ向かいます。ところが待ち受けていたのは、どう見てもただの幽霊ではない相手でした。
ノールに「あとは頼んだ」と託されたリーンは、それを先生からの特別授業だと受け取り、自分の限界を越える一撃に挑みます。
ロロもまた、自ら「強くなりたい」と願い出て、王国の最高の指南役たちから交代で鍛えられることになります。どれほど厳しい訓練でも、ロロは足を止めません。
ノールのもとには、訓練相手として顔なじみの人物が現れます。そして旅立ちが近づいたころには、子どもの頃に世話になった教官との手合わせも待っていました。
別の章では、王子が一連の事件の裏に、まだ正体の見えない誰かの影を疑います。
イネスの生い立ちが語られる章もあります。義父との語らいのなかで、イネスとロロの意外な共通点が浮かび上がります。
訓練の合間に招かれた料理店で、ロロは「必ず帰ってこい」と送り出されます。
出発の朝にもひと騒動ありつつ、一行はついに聖都ミスラへ。そこは、口にした言葉さえ誰かに聞かれている街でした。
舞踏会の朝、ノールだけが教皇の命で別室の「もてなし」へ連れていかれます。ところがノールは、その「もてなし」をまったく別の意味に受け取っていて……。
会場では、ロロに冷ややかな視線が集まります。けれどリーンとロロが踊るうちに、その空気は少しずつ変わっていきました。
やがて教皇は、リーンにある条件を突きつけます。それを拒んだリーンは、数百の兵に囲まれて一人残ることに。けれどリーンには、逃げる必要などありませんでした。
巻末の特別書き下ろしでは、リーンのドレスをめぐる、王子のちょっと過保護な裏話が明かされます。
一方、教皇が顔色を変えた地下の騒ぎの正体は、まだ語られないまま。リーンが姿を消した皇子の後を追うところで、物語は次巻へ続きます。
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