炎の名家に生まれながら追放された少年が、四年後、最強の風術師となって帰ってくる。『風の聖痕』(1巻)は、山門敬弘さんによる富士見ファンタジア文庫の現代ファンタジー(イラスト:納都花丸さん/2002年刊行)。風霊王と契約した八神和麻が、かつて自分を追い出した炎術の名家・神凪家をめぐる事件に巻き込まれていきます。風と炎、二つの術が交わる能力バトルと、和麻と神凪綾乃の迷コンビの掛け合いが大きな読みどころ。第13回ファンタジア長編小説大賞準入選から生まれた、王道の現代ファンタジーです。
総合評価 ★4.5|炎の名家を追放された少年が最強の風術師として帰還する、王道の現代ファンタジー×能力バトル。風と炎の対比や迷コンビの掛け合いが冴える一方、シリーズが未完で終わった点は知っておきたいところ。それでも記憶に強く残る一冊です。
『風の聖痕』はどんな作品?
『風の聖痕』は、現代を舞台にした能力バトルファンタジーです。炎術を操る名家・神凪家に生まれながら、その才に恵まれなかった八神和麻は、かつて一族を追放されていました。それから四年、和麻は風霊王と契約を交わした最強の風術師となって帰国します。しかし時を同じくして、神凪家の人間が次々と惨殺される事件が発生。疑いの目は、一族を追放された和麻へと向けられていきます。炎の才媛である神凪綾乃をはじめ、因縁の一族と再び関わりながら、和麻が事件の真相と自らの立場に向き合っていく物語です。
発売日や著者などの作品データを先に確認したい方は、風の聖痕からどうぞ。向いている人
王道寄りの現代ファンタジー×バトルが好きな人
現代を舞台に、術師たちの能力バトルが繰り広げられる王道寄りの作風です。学園や日常に異能が交わるタイプの現代ファンタジーが好きな人に向いています。
不遇な立場から評価を覆していく主人公が好きな人
主人公・和麻は、かつて一族を追放された過去を背負っています。低く見られていた立場から実力で評価を覆していく展開が好きな人には、すっと入り込めます。
能力バトルの設定や属性にワクワクできる人
風と炎という対照的な術が交わるのが、この作品の大きな見どころです。属性や能力の設定が物語を動かしていく作りなので、そうしたバトルの組み立てにワクワクできる人に合います。
シリアス寄りでも、時折の掛け合いを楽しめる人
事件の緊張感が物語の軸ですが、和麻と神凪綾乃の迷コンビらしいやり取りも随所に挟まれます。シリアスの合間の掛け合いも含めて楽しめる人に向いています。
合わないかもしれない人
物語が未完で終わる作品を避けたい人
後述のとおり、本シリーズは完結に至っていません。きれいに完結した物語だけを読みたい人は、その前提を踏まえて手に取るのがおすすめです。
完結によるカタルシスを強く求める人
結末まで読み切ったときの大きな達成感を最優先で求めると、未完であることがどうしても引っかかってしまうかもしれません。
主人公の性格がやや刺々しい序盤が苦手な人
和麻は序盤、どこか刺々しさを感じさせる言動も見せます。主人公にまっすぐな好感度を求める人には、最初は入りにくく感じられることもあります。
明るく軽快なテンポの作品を求めている人
基調はシリアス寄りで、事件や因縁を追っていく重さがあります。終始明るく軽い読み口を期待すると、トーンが合わないかもしれません。
感想・見どころ
※本記事は作品内容に軽く触れています。未読の方はご注意ください。
『風の聖痕』を読んだのは、ライトノベルにハマっていた時期に、目についた作品を次々と手に取っていた中の一冊としてでした。おそらく2003年前後のことだったと思います。現代を舞台にした能力バトルと、風術師の主人公が因縁の一族と向き合っていく王道の構図が、当時の自分にはしっかり刺さりました。
ただ、この作品について語るうえで触れずにはいられないのが、物語の途中で著者が亡くなり、シリーズが未完のまま遺されてしまったことです。続きを読めないという事実を通して、作品は作者あってのものであり、作者の事情によって物語が続かなくなることもあるのだという現実を、初めて実感した作品でもありました。
それ以来、作品をただ楽しむだけでなく、その背後にいるクリエイターの健康や、創作が続いていくことのありがたさについても、自然と考えるようになりました。今でもふとした拍子に思い出してしまう、自分にとって記憶に強く残っている一冊です。
まとめ
『風の聖痕』(1巻)は、炎の名家を追放された少年が最強の風術師として帰還する、王道の現代ファンタジー×能力バトルでした。風と炎の対比や、和麻と神凪綾乃の迷コンビの掛け合いが冴え、不遇な立場から評価を覆していく主人公の構図が引き込みます。ただし、著者の逝去によりシリーズが未完で終わっている点は、手に取る前に知っておきたいところです。完結のカタルシスを最優先する人には向かないかもしれませんが、王道の現代ファンタジーが好きな人にとっては、読んでおく価値のある一冊。読み終えたあとも長く心に残る作品です。