「勘違い系」「正体隠し系」とひとまとめにされる作品でも、読んでみると面白さの出どころはかなり違います。本人は何もしていないのに周囲が勝手に評価を上げていく作品もあれば、主人公自身が自分の強さを分かっていない作品、正体を隠すこと自体を楽しんでいる作品、隠したい実力がどうしても漏れてしまう作品もあります。
この記事では、たんぽぽ書庫で実際に読んでレビューを書いた作品の中から、勘違いや正体隠しが物語の中心にある4シリーズを選びました。どれが上かではなく、「誰と誰の認識がずれているのか」「何をどう隠しているのか」の違いでタイプ分けしています。
目次
勘違い・正体隠し系新文芸おすすめ4選
| 読みたいタイプ | 作品 | 主人公 |
|---|
| 周囲から勝手に過大評価される話を読みたい | 嘆きの亡霊は引退したい | 才能がないと自覚しているハンター・クライ |
| 無自覚最強・逆勘違いを楽しみたい | 俺は全てを【パリイ】する | 【パリイ】だけを磨いてきた冒険者・ノール |
| 正体を隠して暗躍する主人公が好き | 陰の実力者になりたくて! | 「陰の実力者」に憧れるシド |
| 実力を隠した大人主人公が好き | 前世がアレだったB級冒険者のおっさん | 地味に暮らしたいB級冒険者・ロイ |
4作品とも「主人公の本当の姿と、周りから見えている姿がずれている」という点は共通していますが、そのずれ方がそれぞれ違います。どれが上というより、どんな勘違いや正体隠しを楽しみたいかで選ぶほうが、自分に合う作品に出会いやすいと思います。
なお、4作品とも新文芸のシリーズです。
周囲から勝手に過大評価されるなら『嘆きの亡霊は引退したい』
『嘆きの亡霊は引退したい ~最弱ハンターによる最強パーティ育成術~』(槻影/GCノベルズ)は、宝物殿を探索するトレジャーハンターたちの時代が舞台です。主人公のクライ・アンドリヒは幼馴染たちとハンターを目指したものの、本人には何の才能もありませんでした。そのことを一番よく分かっているのはクライ自身です。
ところが幼馴染たちが活躍するたびに、なぜかクライへの期待だけが高まっていきます。後輩や立場の違う大人たちまで彼を高く買っていて、その場をしのぐために口にした一言さえ、周囲には意味のある合図として受け取られてしまう。自己評価と周囲の評価がずれたまま話が進むこと自体が、この作品の笑いどころです。巻が進むと、誤解が巻き込む範囲も広がっていきます。
主人公が自分の力で状況をひっくり返す話ではないので、無双を期待すると方向性が違うと感じるかもしれません。確認を怠るクライの調子の良さを笑えるかどうかでも、印象は変わりそうです。宝物殿や宝具まわりの世界設定や、主人公に振り回される周囲の人物も楽しめるので、勘違いのおかしさと世界観の両方を味わいたい人に合いやすい作品です。
1巻の読み味は、1巻のレビューで紹介しています。
『嘆きの亡霊は引退したい』1巻の感想・レビューはこちら
本人だけ自分の強さに気づかないなら『俺は全てを【パリイ】する』
『俺は全てを【パリイ】する 〜逆勘違いの世界最強は冒険者になりたい〜』(鍋敷/アース・スター ノベル)の主人公ノールは、冒険者に憧れながら才能がないとされ、ひとつだけ身についた防御技【パリイ】を磨き続けてきた人です。魔物に襲われた王女を助けたことから、王国を取り巻く騒動に関わっていきます。
ノールは自分を鍛錬の足りない最低ランクの冒険者だと信じていて、何を成し遂げても「まだまだ」と反省します。危険な相手に対しても、本人と周囲では状況の受け取り方が大きくずれます。周りの人たちは、ノールの何気ないひと言を深い意味のある言葉として受け取っていきます。同じ場面を王女や王国の人たちの視点で描き直す章が何度も入り、視点が変わるだけで場面の意味が裏返るのが、この作品ならではの面白さです。
「ちょっと確認すれば分かるのに」と思うすれ違いが多いので、誤解が解けないまま進む展開にもどかしさを感じやすい人には、合わない部分があるかもしれません。自分を弱いと信じたまま周りを驚かせていく主人公の話を読みたい人に合いやすい作品です。
1巻の読み味は、1巻のレビューで紹介しています。
『俺は全てを【パリイ】する』1巻の感想・レビューはこちら
正体を隠して暗躍するなら『陰の実力者になりたくて!』
『陰の実力者になりたくて!』(逢沢大介/KADOKAWA)の主人公シドが憧れているのは、主人公でもラスボスでもなく、物語の裏側で暗躍しながら実力を示す「陰の実力者」です。表ではモブ、裏では圧倒的な実力者。その理想に人生を捧げたシドが、異世界で陰の実力者としてふるまい始めます。
本人はあくまで陰の実力者ごっこのつもりです。ところが、それらしく口にした設定や雰囲気で選んだ行動が現実の出来事とかみ合い、周囲はその言動を深読みして評価を高めていきます。「本人はそこまで考えていない」とツッコミたくなる、噛み合っていないのに成立している構造が魅力です。正体を隠して動く見せ場は巻ごとに形を変えて描かれ、事件そのものは重くても、危機すら自分の舞台として楽しむシドのおかげで読み味は沈みすぎません。
シドの中二病的なふるまいは作品の核なので、このノリが合わないと楽しみにくいと思います。バトルが一方的になりやすい点や、主要キャラが女性中心な点も好みが分かれそうです。正体を隠して裏から場をかき回す主人公や、シリアスとコメディの落差を楽しみたい人に合いやすいシリーズです。
読む順番や各巻の感想は、シリーズまとめで紹介しています。
『陰の実力者になりたくて!』の読む順番・各巻の感想はこちら
実力を隠した大人主人公なら『前世がアレだったB級冒険者のおっさん』
『前世がアレだったB級冒険者のおっさんは、勇者に追放された雑用係と暮らすことになりました』(秋作/電撃の新文芸)の主人公ロイロット・ブレイクは、目立たない生活を望むB級冒険者のおっさんですが、実際の実力は等級とまるで釣り合っていません。その理由はタイトルにもある前世に関わっていて、1巻の時点では輪郭しか示されません。
ロイは勇者パーティーを追い出された雑用係の少女ユーリを成り行きで引き取り、二人の同居生活が始まります。実力を隠したいのに、やることなすことが裏目に出て注目を集めてしまう。周囲の反応やうっかり見せた技から正体が推測されていき、読者が先に気づく気持ちよさもあります。食事や風呂、旅先での時間にも紙幅が割かれ、戦闘より暮らしの場面が印象に残ります。
戦いになるとロイが前に出た時点でほぼ決着がつくので、駆け引きや逆転を求める人には物足りないかもしれません。勇者一行は分かりやすい悪役寄りなので、敵役にも筋の通った理屈がほしい人は引っかかると思います。強い主人公を安心して眺めながら、穏やかな暮らしと少しずつ漏れていく実力を楽しみたい人に合いやすいシリーズです。
読む順番や各巻の感想は、シリーズまとめで紹介しています。
『前世がアレだったB級冒険者のおっさん』の読む順番・各巻の感想はこちら
どの勘違い・正体隠し系作品から読む?
もう一度、4作品を読み味で整理しておきます。
| こんな楽しみ方をしたいなら | 作品 | 読み味の目安 |
|---|
| 本人は分かっているのに、周りが勝手に持ち上げていくおかしさ | 嘆きの亡霊は引退したい | 周囲の過大評価・凝った世界設定・主人公自身の無双ではない |
| 本人だけが自分の強さを分かっていないおかしさ | 俺は全てを【パリイ】する | 無自覚最強・同じ場面を別の視点で描き直す構成 |
| 正体を隠して裏から動くこと自体を楽しむ主人公 | 陰の実力者になりたくて! | 正体隠し・暗躍・シリアスとコメディの落差 |
| 隠したい実力がつい漏れてしまうおかしさ | 前世がアレだったB級冒険者のおっさん | 実力隠し・同居の日常・大人の主人公 |
迷ったときは、主人公が自分の力をどう捉えているかで選ぶのもひとつの方法です。自分が弱いと分かっているのがクライ、弱いと思い込んでいるのがノール、強さを自覚したうえで隠すことを楽しんでいるのがシド、強さを自覚したうえで目立たないように隠しているのがロイです。
勘違いのおかしさに加えて何を楽しみたいかで選ぶなら、世界設定の作り込みも味わいたいときは『嘆きの亡霊は引退したい』、穏やかな暮らしの場面も読みたいときは『前世がアレだったB級冒険者のおっさん』が候補になります。
まとめ
勘違いや正体隠しを軸にした作品でも、誰と誰の認識がずれているのか、主人公が何をどう隠しているのかによって、読み味は大きく変わります。今回の4作品は、周囲の過大評価、本人の無自覚、意図的な暗躍、隠しきれない実力と、それぞれ違う形で「本当の姿と見えている姿のずれ」を描いています。
どれが上ということではなく、いまどんなずれを楽しみたいかで選ぶのがいちばんです。気になるタイプから、まずは一作品選んでみてください。