『俺は全てを【パリイ】する1~逆勘違いの世界最強は冒険者になりたい~』(1巻)感想・レビュー
自分を最弱と信じる男の逆勘違いファンタジー

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★★★★★★★★★★4.0 / 5
『俺は全てを【パリイ】する 〜逆勘違いの世界最強は冒険者になりたい〜』(1巻)鍋敷(著)/カワグチ(イラスト)/アース・スターエンターテイメント・アース・スター ノベル の書影

才能がないと言われても、ひとつだけ身についた防御技を磨き続けた男がいます。『俺は全てを【パリイ】する 〜逆勘違いの世界最強は冒険者になりたい〜』(1巻)は、「才能なしの少年」と呼ばれて養成所を去ったノールが、魔物に襲われた王女を助けたことから運命を大きく動かしていく物語です。

著者は鍋敷、イラストはカワグチ。「小説家になろう」発の作品で、アース・スター ノベルから2020年9月に刊行されたシリーズ第1巻です。

総合評価 ★4.0|自分を弱いと信じ込む主人公と、その姿を深読みしていく周囲。同じ出来事が視点によってまるで違って見える構成が、勘違いの面白さを何倍にもしてくれる第1巻です。

目次

『俺は全てを【パリイ】する』はどんな作品?

冒険者に憧れて養成所に通ったものの、「才能なし」とされて去ることになったノール。それでも夢をあきらめきれず、唯一身についた防御技【パリイ】の修行に独りで明け暮れてきました。

そんなある日、ノールは魔物に襲われていた王女を助けます。これをきっかけに、最低ランクの冒険者でありながら王女に慕われ、王国を取り巻く騒動にも関わっていくことに。ところが、自分の力がどれほどのものなのかを、ノール本人だけがまったく分かっていません。

本人の視点ではごく真面目な努力の物語なのに、周りの人物の視点に切り替わると、まるで違う話に見えてくる。このずれを楽しむ「無自覚最強」ものです。

発売日や著者などの作品データを先に確認したい方は、俺は全てを【パリイ】するからどうぞ。

向いている人

本人だけが気づかない「無自覚最強」ものが好きな人

ノールは何を成し遂げても「まだ鍛錬が足りない」と反省する人です。本人の大真面目な自己評価と、読者から見た規格外ぶりとのギャップが、読んでいてずっとおかしく感じられます。

同じ場面を別の視点で読み直すのが好きな人

この巻では、ノールの視点で描いた出来事を、王女や王子、王家に仕える人たちの視点で描き直す章が何度も入ります。同じ場面の意味が視点によって裏返るので、勘違いの面白さが二重に味わえます。

まっすぐで善良な主人公を応援したい人

ノールは見返りを求めず、どんな仕事にも手を抜きません。勘違いの多い人ですが、困っている相手には迷わず手を差し伸べます。ギルドのおじさんをはじめ、周りの大人たちがノールに親身なのも、読んでいて気持ちのいいところです。

合わないかもしれない人

すれ違いのもどかしさが苦手な人

ノールは周りの状況になかなか気づかず、周りも周りでノールの言動を深読みしていきます。「ちょっと確認すれば分かるのに」と思う場面が多いので、誤解が解けないまま話が進む展開にストレスを感じやすい人には、合わない部分があるかもしれません。

1冊できれいに区切りがつく話を読みたい人

1巻は、続きが気になるところで幕を閉じます。一冊で物語がまとまることを期待すると物足りなく感じるかもしれません。続刊とあわせて読み進める前提で手に取るのがおすすめです。

感想・見どころ

※本記事は作品内容に軽く触れています。未読の方はご注意ください。

アニメ第1話を視聴したことがきっかけで、原作を手に取りました。この巻の楽しさは、大きく分けて「ノールのとんでもない努力の積み重ね」「ノールと周りの人たちの噛み合わなさ」、そして「後半の旅で見せる規格外ぶり」の3つです。

序盤でまず驚いたのは、ノールの鍛錬の年数です。ノールは冒険者の養成所で、剣士・戦士・狩人・盗賊・魔術師・僧侶のすべての訓練所に通い、それぞれ初歩のスキルだけは身につけています。それだけでも十分すごい気がするのですが、そこから十年以上、山でたった一人、畑仕事と狩りの合間の時間をすべて鍛錬に注いできたのです。なかでも防御技【パリイ】は、吊るした木剣を千本まとめて弾けるほどに磨き上げていて、ある意味、これ以上ない一点突破です。

王女を助ける場面も、ノールらしさ全開です。王女を襲っていた、巨大な斧を持つ二足歩行の魔物も、ノールにとってはあくまで「大きな牛」。勝ち目がないと感じながらも少女を守ろうと立ち向かう姿はかっこいいのですが、終わってみれば本人は「自分はまだまだ」と反省しながら、名乗りもせずに立ち去ってしまいます。どう考えても普通ではない出来事なのに、あれを牛だと思っているのですから、読んでいるこちらは思わず突っ込みたくなります。

中盤は、勘違いが二方向から転がっていくのが楽しいところです。ノールは、助けた少女が王女だということになかなか気づきません。お礼に招かれた「家」は門番の立つお城のような建物で、そこで会う少女の父親も明らかにただ者ではないのに、それでも気づかない。「気づいて!」と何度言いたくなったことか。一方で周りの人たちは、ノールの何気ないひと言を深い意味のある言葉として受け取っていきます。王女リーンに弟子入りを頼まれたノールが、教えられることなんて無いと正直に断る場面も、リーンの側からはまるで違う意味に見えている。本人の視点と周りの人物の視点で、同じ場面の意味が真逆になる章もあり、この作品の面白さがよく分かります。

後半は冒険者らしい依頼にも出かけますが、初めてのゴブリン退治で出会う「ゴブリン」からして、大木を振り回すような相手。私の想像する「初心者向け」とはだいぶかけ離れていました。それでもノールは最後まで自分を弱いと思い込んだままです。

とくに、旅の途中のある戦いは、この巻でいちばん笑った場面です。周りが恐れる相手を、ノールはまったく別の、ずっと弱い生き物だと思い込んで挑みます。毒を浴びて窮地のはずなのに、冷静に考察して「なんとかなるかもしれない」と結論づけるノール。その根拠になる山暮らしの思い出話がまたとんでもなくて、思わず「意味がわからん」と声が出ました。

そんなノールですが、なんだかんだで相手の心に届くことを言うのが、この主人公のいいところです。勘違いが空回りしつつも温かい場面があり、読後感はとても気持ちのいいものでした。私が読んだ版には、初回版限定の購入者特典として特別書き下ろし「はじめてのゴブリンたいじ」が収録されていて、五歳のリーンのお転婆ぶりが描かれています。今のしっかりした王女ぶりからは想像しにくい姿が見られます。

まとめ

『俺は全てを【パリイ】する』1巻は、【パリイ】だけを磨き続けた青年ノールが、自分を弱いと信じたまま周囲を驚かせていく物語です。

すれ違いのもどかしさは好みが分かれるところですが、真面目で善良な主人公と、彼を深読みしていく周りの人たちのやりとりはとても楽しく読めました。いいところで終わるので、続きが気になります。

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