『前世がアレだったB級冒険者のおっさんは、勇者に追放された雑用係と暮らすことになりました』(1巻)感想・レビュー
正体を隠したおっさんと追放された少女の同居生活
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★★★★★★★★★★3.5 / 5
追放される少年を助けたら少女だった、という出だしから、この作品は追放ものというより同居ものへ舵を切っていきます。秋作による電撃の新文芸の第1巻で、2025年4月刊。カクヨムのコンテスト発の一作で、主人公に据えられているのは勇者でもS級でもない、地味に生きることを望むB級冒険者のおっさんです。
派手な戦果よりも、風呂と食事と昇級試験という生活の手触りで進んでいく巻でした。そのぶん、どこに乗れるかで評価が大きく変わる読み味でもあります。
総合評価 ★3.5|追放ものの棘は薄く、同居と食事の穏やかさで読ませる1巻。ただし勇者側の描かれ方に引っかかると、そこから熱が引きやすいところもあります。
ポチップ
目次
『前世がアレだったB級冒険者のおっさんは、勇者に追放された雑用係と暮らすことになりました』はどんな作品?
上級冒険者たちの華やかな活躍を横目に、地味な仕事を地味にこなして満足しているB級冒険者、ロイロット・ブレイク。ある日彼は、勇者のパーティーから雑用係の少年が追い出される場面に居合わせ、成り行きでその面倒を見ることになります。ところが風呂から上がってきたのは少年ではなく少女で、名をユーリ・クロードベルといいました。ロイはその名前に何かが引っかかるものの、それが何かは思い出せません。立て替えてもらった分を返す当てがつくまで、という約束のもと、実力を隠したおっさんと追放された少女の暮らしが始まります。
発売日や著者などの作品データを先に確認したい方は、
前世がアレだったB級冒険者のおっさんは、勇者に追放された雑用係と暮らすことになりましたからどうぞ。
向いている人
追放の「ざまぁ」より、その後の暮らしを読みたい人
追放シーンは冒頭であっさり片付き、物語の重心はすぐに二人の生活へ移ります。復讐の段取りを積み上げるタイプではないので、追い出された側が穏やかに立て直していく過程そのものを読みたい人に向いています。
実力を隠している主人公が好きな人
ロイは自分から強さを誇示せず、周囲がその違和感に気づいていくという書き方をされています。本人が目立ちたがらないぶん、ふとした場面で漏れる規格外さが効いてきます。周りの評価が本人の申告に追いつかない、あの感じが好きなら楽しめるはずです。
食事や暮らしの描写でほっとしたい人
食事の場面に丁寧に紙幅が割かれていて、単なる背景描写では終わっていません。何を食べたか、それをどう受け取ったかまで書かれるので、読んでいるこちらまで腹が減ってきます。戦闘より食卓のほうが記憶に残る、という読み方ができる巻です。
謎を小出しにされるのが好きな人
ロイの前世については、1巻の時点でも輪郭までしか示されません。断片が繰り返し提示されながら肝心のところが伏せられ続けるので、その焦れったさを楽しめるかどうかが、続きを読むかの分かれ目になりそうです。
合わないかもしれない人
敵役にも筋の通った理屈がほしい人
勇者たちの言動は、正直なところ「そこまでするか」と感じる場面が少なくありませんでした。悪く描かれること自体は構わないのですが、そうなるだけの背景が積まれていないと、物語の都合で悪役を割り当てられているように見えてしまいます。敵役の行動にも納得の手がかりを求めるタイプだと、ここで引っかかると思います。
障害の少ない展開だと物足りない人
主人公もヒロインも強く、出会う人たちもおおむね好意的です。困りごとが持ち上がっても、たいていは大きく揺さぶられる前に片付いていきます。ひりつく緊張感や、簡単には報われない展開を求めていると、全体的に出来過ぎた印象を受けるかもしれません。
関係の変化はゆっくり進んでほしい人
二人の距離は、1巻のうちにかなりのところまで動きます。公式のあらすじでも互いに惹かれ合っていくことは明かされていますが、その速度は想像よりだいぶ速めです。じりじりと縮まっていく過程を長く味わいたい人には、駆け足に感じられるでしょう。
感想・見どころ
※本記事は作品内容に軽く触れています。未読の方はご注意ください。
読み終えて一番に残ったのは、ユーリという少女の描き方でした。男として育てられてきた彼女が、髪を整えてもらったり、湯船に浸かったりといった、本来なら当たり前のことを一つずつ初めて経験していきます。派手な見せ場ではないのに、そのたびに彼女の世界が少し広がるのが分かるので、読んでいて素直に嬉しくなりました。
その延長にあるのが食事の場面です。作った料理を褒められる、というだけのやり取りに思いのほか厚みがあって、これまで彼女がどう扱われてきたかが説明抜きで伝わってきます。食べ物の描写自体も丁寧なので、物語が動いていない時間ほど読み心地が良い、という珍しい巻でした。
冒険者としてのパートも、この穏やかさと地続きです。倒した魔物を持ち込んで査定してもらう、飛べる生き物を借りて移動する、といった仕組みが生活の一部として書かれていて、世界の手触りがつかみやすくなっています。ロイが力を持て余している気配も、こうした日常の合間にさりげなく差し込まれていました。
その点で、どうしても引っかかったのが勇者一行の描かれ方です。彼らの言動には、自分が同じことをされたらどう思うか、という視点がまるでありません。悪役として機能させたいのは分かるのですが、そうなった理由が用意されていないため、物語の都合で悪く書かれているように見えてしまいました。ここに乗れないと、追放という出発点そのものが軽くなってしまいます。
この違和感が尾を引いて、全体としては少し出来過ぎた印象も残りました。主人公は強く、ヒロインも強く、出会う人はおおむね善良で、困りごとは大きくならないうちに収まっていきます。悪い読み味ではないのですが、どこか琴線に触れきらないまま最後まで進んでしまった、というのが正直なところです。
とはいえ、脇を固める人たちは魅力的でした。手続きを親身に教えてくれる受付嬢や、こちらの身構えを外してくるような気持ちのいい相手など、二人以外の登場人物が場を回してくれる場面はどれも印象に残っています。特に中盤のある騒動は素直に笑えて、この作品が本当にやりたいのはこういう空気なのだろうと感じました。
まとめ
1巻を読み終えて残ったのは、戦いの記憶ではなく、風呂と食事と、褒められて泣いてしまう場面でした。追放ものの看板を掲げつつ、中身は正体を隠したおっさんと居場所を失った少女の生活譚で、その穏やかさこそがこの作品の一番の持ち味だと思います。一方で、勇者たちの扱いには最後まで納得がいかず、全体の出来過ぎた感触もあって、評価は★3.5としました。刺激より安心感を求めて読む人には合うはずで、続きでは輪郭しか見えていない前世がどこまで明かされるのかを見てみたいところです。
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