『嘆きの亡霊は引退したい ~最弱ハンターによる最強パーティ育成術~ 2』(2巻)感想・ネタバレ解説
帝都を巻き込む勘違いと最優の錬金術師

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★★★★★★★★★★4.5 / 5
『嘆きの亡霊は引退したい ~最弱ハンターによる最強パーティ育成術~ 2』(2巻)槻影(著)/チーコ(イラスト)/マイクロマガジン社・GCノベルズ の書影

何もしていない人間の一言が、いつのまにか国家規模の事件を動かしてしまう。『嘆きの亡霊は引退したい ~最弱ハンターによる最強パーティ育成術~ 2』(2巻)は、1巻の勘違いがそのまま帝都全体を巻き込む大きさへ育っていく巻です。

槻影によるGCノベルズの異世界ファンタジーで、イラストはチーコ。2019年刊行のシリーズ第2巻にあたります。

1巻が寄せ集めのパーティの探索に寄っていたのに対し、この巻はクラン全体・探索者協会・敵対勢力と視点が一気に広がります。そこへ幼馴染のひとりである錬金術師シトリー・スマートが帰ってきて、物語の重心がはっきり動くのが読みどころでした。

総合評価 ★4.5|勘違いの規模が帝都サイズへ膨らみ、敵側の思惑まで描かれて話が立体的になる巻。1巻で待たされた幼馴染の掘り下げも進む、シリーズの面白さが一段上がる第2巻です。

目次

『嘆きの亡霊は引退したい』はどんな作品?

『嘆きの亡霊は引退したい』は、宝物殿を探索するトレジャーハンターたちの黄金時代を舞台にした異世界ファンタジーです。主人公クライ・アンドリヒには何の才能もないのに、人間離れした幼馴染たちが各地で暴れるたび、なぜか彼への評価だけが高まっていきます。

2巻では、クライがうっかり逃してしまった最凶のスライムと、危険な実験を重ねる邪悪な魔術結社によって、帝都ゼブルディアが人知れず滅亡の危機に立たされます。気もそぞろなクライのもとへ、最強パーティ《嘆きの亡霊》のメンバーであり幼馴染のひとりでもある錬金術師シトリー・スマートが帰還する、というのがこの巻の入口です。

発売日や著者などの作品データを先に確認したい方は、嘆きの亡霊は引退したい ~最弱ハンターによる最強パーティ育成術~ 2からどうぞ。

向いている人

勘違いが取り返しのつかない規模へ育つ話が好きな人

1巻では依頼ひとつぶんで収まっていた誤解が、この巻では協会・クラン・国まで巻き込む規模になります。適当な受け答えが本人の知らないところで方針を決めていく怖さと可笑しさを、両方まとめて楽しめる人に向いています。

敵側の事情まで描かれる構成を読みたい人

この巻は魔術結社の側にも視点が置かれ、彼らがどう判断し、どこで狂っていくのかが並行して描かれます。何も知らない主人公と、勝手に警戒を強める相手との噛み合わなさが構図として見えるので、勘違いものの面白さが一段深くなります。

幼馴染たちの掘り下げを待っていた人

1巻は幼馴染以外のキャラの出番が多めでしたが、2巻では彼女たちが正面から物語を担います。とくに帰還した錬金術師シトリーは、この巻の中心と言っていい扱いで、その人となりがたっぷり描かれます。

大人数が集まる総力戦を読みたい人

異変の調査に多くのハンターが動員され、複数のパーティが同時に動く場面が続きます。個人の強さ比べだけでなく、指揮や役割分担を含めた集団戦の空気が味わえるのは、この巻ならではの読み応えです。

合わないかもしれない人

主人公自身が実力で解決する展開を求める人

クライは2巻でも自分の力で戦況をひっくり返す立場にはいません。周囲が勝手に動いた結果として事態が進むので、主人公の無双を期待すると方向性が違うと感じるはずです。

主人公の場当たり的な言動がストレスになる人

その場を濁すための発言が周囲を動かし、結果として人を危険な場所へ送り出してしまう場面があります。本人に悪気がないぶん、読み手によっては「もう少し確認してくれ」と言いたくなるかもしれません。

強敵との攻防をじっくり読みたい人

この巻の戦闘は、圧倒的な実力者が出てくると短い時間で片がつく傾向があります。積み上げた末の熱い殴り合いを期待すると、決着の速さに物足りなさを覚える場面もあります。

感想・見どころ

※本記事は作品内容に軽く触れています。未読の方はご注意ください。

2巻でまず驚いたのは、話の器がひとまわり大きくなっていることでした。1巻は依頼ひとつを追う話でしたが、この巻では宝物殿の異常が街道の封鎖や商隊の被害という形で外へ漏れ出し、探索者協会が動き、クランが動き、最後には国まで巻き込む規模になります。それでも主人公の姿勢だけは1巻のまま変わらないので、周囲との温度差はむしろ広がっていきます。

その温度差を回しているのが、相変わらず有能すぎる周囲の人たちです。クライが何気なく振った一言を、部下は「前兆を掴んだ合図」と受け取って全力で調査を始めてしまう。無責任な受け答えが最短距離で行動へ変換されていく速さが可笑しくて、同時に少し怖くもありました。何回か適当を言っただけの人間が、どうすればここまで絶対視されるのかと考え込んでしまいます。

この構図が効いてくるのは、今回は敵側の視点も並行して描かれるからです。何も知らないまま動くクライの言動が、向こうには「こちらの計画を完全に見抜いている」と映る。読者だけが両方の内側を知っている状態で、噛み合わないまま事態が転がっていくので、勘違いものとしての面白さが1巻より立体的になっていました。敵の側にも組織としての事情や意見の対立があり、その現場判断が結果を左右していくのも読み応えがあります。

そのうえで、この巻の主役はやはりシトリーです。1巻で名前だけ置かれていた幼馴染が帰ってきて、事件の解析から指揮まで引き受けていくのですが、有能さの見せ方が最初から普通ではありません。にこやかに理屈を並べるほど、その理屈がどこから来たのかが気になってきて、頼もしさと不穏さが同じ顔に乗っている感じがずっと続きます。1巻で「幼馴染の話をもっと読みたい」と思っていた分、ここは望みどおりでした。

一方で、戦闘そのものは長く引っ張りません。桁の違う実力者が出てきた瞬間に勝負が決まる場面が続くので、緊張感の作り方としては「誰が間に合うか」に寄っています。あっけないと感じる人もいると思いますが、本作の場合はこの落差自体が持ち味なので、個人的には気になりませんでした。

設定の面白さも1巻から継続しています。宝物殿の由来やマナ・マテリアルの働きなど、世界の仕組みに関する説明が要所で挟まり、読みながら「この力の伸び方は本人の意思で決まるのか」といった想像が広がります。物語の外側にある理屈を眺めているだけでも楽しいのは、このシリーズの良いところです。

巻末には本編と温度感の違う外伝と、次巻へつながる短い挿話が置かれています。外伝はシトリーの過去を扱っていて、本編で感じた不穏さの出どころが少し分かる作りです。読み終えたあとの後味が本編とまったく違うので、こういう配置は好きでした。

まとめ

『嘆きの亡霊は引退したい』2巻は、主人公の適当な一言が帝都規模の事件を動かしてしまう勘違いコメディに、敵側の視点と幼馴染の掘り下げが加わった一冊です。何も知らない側と勝手に警戒する側、その両方が見えることで、シリーズの面白さが一段上がっていました。

主人公自身の無双や、じっくりした強敵との攻防を求めると方向性は違いますが、勘違いが取り返しのつかない大きさへ育つ様子を楽しみたい人にはよく刺さるはずです。1巻で待たされた幼馴染の物語がここから本格的に動き出すので、続きを読む手が止まらなくなる第2巻でした。

🔒 ネタバレあらすじを開く(クリックで表示)

2巻は、クライが幼馴染から預かっていたものを失くしていた、という気まずい事実の確認から始まります。原因を突き止めないまま自分に都合よく結論づけて放置したことが、そのまま帝都の危機の火種として置かれます。

ほどなく帝都近郊の宝物殿で異常が起き、探索者協会が高位のハンターを集めて調査に乗り出します。クライは例によって場を濁すだけなのですが、その受け答えが「異変の核心を掴んでいる」と解釈され、クラン総出の動員と過剰なほどの布陣が組み上がっていきます。異変の裏で動いていたのは、宝物殿そのものを人の手で作ろうとする魔術結社でした。

帝都での日常のなかで、主人公たちは知らないうちに相手側と接触します。こちらに探る気などまったくないのに、向こうは「完全に見抜かれている」と受け取ってしまい、計画の破棄と迎撃のあいだで方針が揺れ続けます。この読み違いが、以後の展開すべての前提になります。

そこへ帰ってきた錬金術師の幼馴染が、自分の失敗として事態を引き受け、調査と追跡の指揮を握ります。敵の正体と理論を短時間で見抜き、迷いなく手を打っていく姿は頼もしいのですが、その手際が良すぎることのほうが引っかかる作りになっています。やがて双方の戦力がぶつかり、夜の総力戦は規格外の切り札の投入で一度は絶望的なところまで傾きます。

決着のつけ方と、その場に間に合った者が誰なのかは読んでのお楽しみです。事件が収まったあと、彼女が長く追ってきた因縁がどう清算されたのかが明かされ、そこで見せる顔がこの巻のいちばんの引きになっています。巻末では帝都を訪れた他国の一団と、幼馴染の過去を辿る外伝が置かれ、次巻へ渡されます。

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