『前世がアレだったB級冒険者のおっさんは、勇者に追放された雑用係と暮らすことになりました3』(3巻)感想・レビュー
幽霊船からの魔王城
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★★★★★★★★★★3.5 / 5
乗っているのも動かしているのも幽霊、という船で魔王城を目指す。3巻はそんな一行が、船の中で開かれた闘技大会に出場するところから大きく動き出します。
秋作による電撃の新文芸のシリーズ第3巻で、2026年7月刊。1巻は同居の始まり、2巻は新婚旅行と拾いものの騒動でしたが、今回は最初から目的地がはっきりしているぶん、旅そのものが賑やかです。
お祭り騒ぎの裏で、ロイが伏せてきた前世の輪郭がここまで来てようやく形を持ちます。ここまでの積み重ねが一気に効いてくる巻でした。
総合評価 ★3.5|幽霊船と闘技大会でシリーズ随一の賑やかさ。積み上げた謎が動く一方、決着の呆気なさと敵側の詰めの甘さは相変わらずです。
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目次
『前世がアレだったB級冒険者のおっさんは、勇者に追放された雑用係と暮らすことになりました』はどんな作品?
実力を隠して地味に生きることを望むB級冒険者ロイロット・ブレイクと、勇者パーティーを追われた雑用係の少女ユーリ・クロードベルの同居ファンタジーです。3巻では、幼なじみのテオと先代魔王の娘リミのために現魔王を倒すと決めたロイが、魔王城のあるネルドシス大陸を目指して幽霊船ブラッドロード号に乗り込みます。ユーリとの船旅を楽しんでいたところへ魔族の追手が現れ、成り行きから船上で闘技大会が開かれることに。しかもロイは、その舞台でユーリと拳を交えることになります。
発売日や著者などの作品データを先に確認したい方は、
前世がアレだったB級冒険者のおっさんは、勇者に追放された雑用係と暮らすことになりました3からどうぞ。
向いている人
賑やかなお祭り回が読みたい人
幽霊船という舞台からして遊びに振り切っています。乗員も乗客も幽霊で、しかも仲間内でさえ見える者と見えない者に分かれる。船内にはあの世とこの世の狭間に繋がる闘技場まで用意されていて、設定の説明を聞いている段階から楽しくなってきます。イベントが次から次へと押し寄せる巻なので、密度で押してほしい人には向いています。
主人公の間抜けさと強さの落差が好きな人
正体を隠すための仮面が売り切れていた、という理由でロイが選ぶ出場衣装が最高でした。その格好のまま実力だけは本物なので、観客の中で妙な存在として定着していきます。実力を隠したいのに一番目立ってしまう、というこのシリーズの持ち味がもっとも分かりやすく出た場面だと思います。
ここまでの伏線が動くのを待っていた人
1巻から匂わされてきたロイの前世と、ユーリに感じていた既視感。3巻ではその両方に手が届きます。しかも本人が思い出す形だけでなく、周囲の反応や手元に現れた品物から輪郭が浮かぶ書き方なので、読者側が先に気づく気持ちよさもありました。
脇の面々にも見せ場が欲しい人
テオとリミ、ローザ、そして英雄ニック。今回はそれぞれに自分の相手と向き合う場面が用意されていて、終盤は主人公ひとりの無双ではなく手分けした総力戦の形になります。誰がどこを受け持つのかが決まっていく流れは、素直に気持ちよかったです。
合わないかもしれない人
決着そのものに読み応えがほしい人
ロイが前に出ると、たいていの相手はほとんど保ちません。そこまで積み上がった緊張が一手でほどけてしまうので、駆け引きや逆転の手触りを求めて読むと肩透かしに感じるはずです。強い主人公を安心して眺める作品だと割り切れるかどうかで、印象がかなり変わります。
敵側の判断にも理を求める人
敵は基本的に少しずつ出てきます。まとめてかかれば違っただろうという場面が何度もあり、そのたびに戦力の出し惜しみが気になりました。悪役としての振る舞いは清々しく徹底しているぶん、こういう詰めの甘さのほうが目についてしまいます。
次巻への強い引きが欲しい人
この巻はシリーズとして大きな区切りになっていて、読み終えたときの感触も「ひと区切りついた」というものでした。ただそのぶん、次に何を追いかけるのかという具体的な予告は控えめです。ここから先も読むぞという勢いのまま次巻へ進みたい人には、少し物足りないかもしれません。
感想・見どころ
※本記事は作品内容に軽く触れています。未読の方はご注意ください。
幽霊船という発想がまず楽しくて、動かしているのも乗っているのも幽霊、しかも見える人と見えない人がいるという説明を読んだ時点でもう掴まれていました。パーティーがあり、ダンスがあり、船底には闘技場がある。魔王城へ向かう船旅という緊張感のある状況なのに、道中がとにかく賑やかです。
その賑やかさが頂点に達するのが闘技大会でした。仮面が手に入らなかったせいでロイが選ぶ出場スタイルには声が出ましたし、そのまま気づかれずに周囲へ喧嘩を売られているのも笑ってしまいます。正体を隠したいという動機で選んだはずの格好が、結果として一番語り草になってしまう。この作品の主人公らしい転び方でした。
この流れの中で用意されるのが、夫婦での顔合わせです。勝敗そのものよりも、その最中にロイの中で何が起きたかのほうが重要で、ここで前世の話がぐっと前に出てきます。ユーリの規格外さにも改めて説明がつきそうな気配があり、二人の関係が単なる同居から別の意味を帯び始めるのが分かりました。優勝賞品より、そのあとに渡される贈り物のほうがずっと効いています。
一方で、引っかかったのは敵側の運用でした。数を揃えられるはずの状況で少しずつ寄越してくるので、そのたびにまとめて来ればよかったのにと思ってしまいます。ロイが参戦した瞬間に決着がつくのはこの作品の作法として受け入れているのですが、その作法があるぶん、敵の側にはもう少し詰めていてほしくなりました。
そのうえで、終盤の組み立てには満足しています。仲間がそれぞれの因縁の相手を受け持ち、主人公が単独で最奥へ進む形に分かれるので、これまで積み上げてきた関係が一斉に回収されていきます。誰がどこを担当するかが決まった時点で、こちらのパーティーは強いなと素直に思えました。
読み終えてまず来たのは、寂しさでした。旅が終わって元の暮らしに帰っていく最後の数ページは、そういう気持ちにさせる書き方をしています。ただ、帰った先で待っていたのが溜まった依頼だけというのは、次への引きとしてはやや弱め。区切りとしての満足感と、この先への手がかりの少なさが同居した読後感でした。
まとめ
3巻で一番残ったのは、幽霊船のお祭り騒ぎと、そこで開かれた闘技大会の楽しさです。仮面が買えなかったせいで生まれた妙な出場スタイルから、夫婦の顔合わせ、そして仲間が手分けして挑む終盤まで、シリーズで最も賑やかな一冊でした。決着の呆気なさと敵側の詰めの甘さは相変わらずなので評価は★3.5としましたが、1巻から引っ張ってきた前世の謎に手が届く巻でもあります。ここまで読んできた人ほど報われる区切りなので、シリーズを追っているなら外せない一冊です。
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